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Vol.6 川澄 夕子さん 〜美〜

第1回:川澄夕子という人

『京都生まれ東京育ち』

日の出農園直売所。柚子の季節にオープンする。

直売所はコンビニエンスストアの1/3くらいの広さ。

11月〜4月に開店する。
入り口には『無農薬にがくない本物のゆず』と書かれたの大きな垂れ幕が掲げられている。

夕子さんが山梨県のゆず農家であるご主人と出会い、山梨県に嫁いで来たのは今から24年前。
両方を知る知人がキューピット役となり、引き合わせたのがきっかけだった。

当時夕子さんは東京・六本木に会社を構える商社の受付嬢。

昔からの社交的な性格から友人も多く、多方面に渡り交友関係も広かった。

お生まれは京都。京都では着物のモデルさんや、テレビ局で地方リポーターのようなこともしていたそうだ。
東京に越してきてからも六本木や銀座などの華やかな場所が身近にある環境だった。

『「衣装もちですね。」ってよく言われるんだけど、黒い服が多いだけなの!』と夕子さん。

一方、ご主人の家がある増穂町は自然に恵まれた場所。夜10時にもなれば人の多く集まる場所はごく一部に限られてくるような所に嫁ぐということに抵抗は無かったのだろうか。

私の投げかけた質問に
『悩みはしなかったのよね。』あっけらかんとした口調でと答えた。

ただ、たくさんの友達と離れ離れになってしまうことは非常につらかったそうだ。

友達を作るのが特技≠ニいう夕子さんは電車の座席が隣というだけでもすぐ友達になってしまう。
そんな夕子さんにとって友達の一人一人がかけがえの無い大切な宝物。

だからこそ宝物を置いていくことは後ろ髪を引かれる想いだった。


『パテーションの向こう側』

立派な柚子たちが並んでいるため直売所の中は柚子の良い香りでいっぱい!


ゆずの最盛期である11月終わり頃から12月にかけて、直売所には朝から夜まで絶え間なくお客さんが出入りする。
取材で伺ったときも日曜日のまだ『空いている時間帯』にも関わらず次から次へとお客さんがいらっしゃるので、『ここでゆっくりしていて。』と特別室≠ノ通していただいた。

そこは直売所の中にパテーション一枚で隔てられた部屋で、ゆずの在庫や箱詰め作業をするための備品が納められているところだった。

電気カーペットを入れてくれおやつ≠戴き、本当にゆっくり≠オてしまった私だが、パテーションの向こうから聞こえて来る話し声が面白く、興味深く耳を傾けていた。

『これお土産!また次んときゃあ漬もん持って来てあげるからね!』と夕子さんよりも年が上と思われる女性の声。

『いつもありがとう!』
甲州弁で勢いよく話すその女性と、綺麗な標準語の夕子さんとの会話はアンバランスだったが、ずいぶん親しい感じがパテーション越しにも伝わってきた。

女性が帰ると 『あの人はお姉さん≠ンたいな人。いつもおかずとかいろいろ持ってきてくれるのよ。』と教えてくれた。

しばらくするとご年配のご夫婦と思われる2人が入ってきた。
『またいろいろ商品を出したな〜。よく考えるわ。』

男性は少しドスの利いたお声の方。
『ここのゆずは本当に良いもんだから、俺が箱を変えろって言っただぁ。』とご一緒の奥さんに話している様子。

試食の柚子の砂糖漬けを気軽に勧める夕子さん。これも味や品質に自信を持っているからこそ。


『良いアドバイスいただきました。ありがとうございました。』 と夕子さん。

ずいぶんたくさんのゆずを購入し、上機嫌でご夫妻は帰っていった。
この男性は夕子さんが嫁いで来る前からお付き合いがあった方らしい。
ご自身も事業を成功させた方ということもあり、商売に対して厳しい目を持っている方でもあるようだ。

そんな方が、20年ほど前来店した際、
『ここのゆずはものは良いが箱が良くない!』と言ったらしい。

実は東京で多くのものを見聞きし、感性を磨いてきた夕子さんの目から見ても以前の箱はあまりセンスの良い物とは言えないと常々感じていた。

夕子さんは男性の言葉を真摯に受け止め、夕子さん始動で数回のリニューアルを加えながらやっと納得のいく現在の箱に行き着いたそうだ。

パッケージ全体のカラーを夕子さんの好きなモノトーンでまとめ、『ゆず』の文字はご主人直筆のものを使った。

途中あまりお店に来なくなってしまった男性だったが、3年ほど前からまた足を運んでくれるようになり、遂に『良い箱作ったね!』とお褒めの言葉を頂いた。

『やったー!って感じだったわ。』
それ以来厳格なその男性から夕子さんは一目置かれる存在となっているようだ。


『金つば』

一口食べたら止まらない柚子の砂糖漬け。『少し砂糖多めくらいが美味しくなるの。』

さて、パテーションのこちら側で私が戴いたおやつ≠ニいうのが日の出農園特製 ゆずの砂糖漬け≠ニ夕子さんお手製金つば=B

『このお茶はお友達から戴いたものなんだけどとっても美味しいのよ。』
と綺麗な萌黄色のお茶を丁寧に淹れてくださった。

隣には瑞々しく黄金色の光りを放つゆずの砂糖漬け=B
フォークを差し、一口食べると思わず口に出る言葉は『にがくない!』

私が日の出農園のゆずを戴くのはもう3年目になるが毎度のことながらその美味しさに感動する。

お手製金つばのこのしっとり≠ニした姿は黒髪の美しい日本女性を連想させられる…夕子さんみたい!

(この日は思わず、夕子さんが忙しく口にする暇がないことを良いことに一人で一皿を平らげてしまった。)

そして初めて戴く夕子さんお手製金つば=B
断面から小豆の粒が見え、手作りならではのつぶつぶした感じが良い。

『良い素材しか使わないのよ。これは毎年ゆずが忙しくなる少し前に作ってお歳暮代わりに私の好きな方々に配り歩くのよ!』

口にするたびに、体の中に染み入って元気を与えてくれるような小豆の自然な甘さがたまらなかった。

女性として学ぶところの多い方だと舌を通じて♂めて感じた。


『親の背中』

直売所のパテーションの向こう側には箱詰め用の柚子たちがぎっしり!


夕子さんには3人の子供がいらっしゃる。
上が娘さん、下二人が息子さんでご長男は現在医大生。

昔から共働きだったため子供たちは学校が終わると家に帰らず直売所で過ごしていることが多かったそうだ。

夕子さんのご主人の日出雄さんは、初めて電話でお話したときに、独特のゆったりとした語り口調に(失礼ながら)内容とは関係のないところで思わず笑ってしまったくらいほのぼのとした方。

『楽しくて、一緒にいて気が楽な人』 と結婚24年目にして夕子さん。

『変わらぬ気持ち』というよりも24年の間に2人でいろいろなことを共に経験して、さらに今の良い関係が出来上がってきた感じだ。

この日私が取材に来るからと忙しい作業の手を休め、わざわざ直売所に顔を出してくださったご主人は相変わらず、気さくでほっとする笑顔で迎えてくださった。

お客さんのいない合間に郵送用の箱詰め作業をせっせと進める夕子さん。


私たち2人は夕子さんがきびきびと宅配用の箱詰め作業を進める傍らでお茶を啜り、おやつ≠戴き、日出雄さんの次から次へ出てくる他愛も無い話で盛り上がっていた。

『楽しくて、一緒にいて気が楽な人』
と夕子さんが言う意味が短い時間ではあったがわかる気がした。

そんな日出男さんは子供にも『勉強しろ』などと言うことはないそうだ。 夕子さんも右に同じ。

夕子さんの睡眠時間はピーク時2〜3時間。 直売所の仕事が終わり、家に帰り、夕飯を済ませると電話注文・Fax注文・メール注文のチェックをする。

作業が終わるのは深夜2時くらいになってしまうことも…。 それでも子供の弁当作りがあるため朝は5時には起きる。

そんなご両親の背中を見て育った子供たちは今それぞれの目標に向かい自分の道を進みはじめている。そして今でも自主的に店の手伝いをしてくれるという。

2005年12月12日(月)
(文と写真 折居 由加)
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